「自信を持って営業できない」「あと一歩が突破できない」。営業組織を預かる方であれば、若手や中堅のメンバーにこうした状態を見たことがあるはずです。自信のない営業からは顧客も買いたいと思わないため、この状態は本人の悩みにとどまらず、成績に直結します。ただ、「もっと自信を持て」と伝えても、自信は生まれません。
私は新人の頃、自分に自信を持てない営業でした。外資系製薬会社のMRとして、全国で千人を超えるMRのなかで下位10%程度の成績から始まり、3年目の終わりから4年目にかけて全国1位になりました。振り返ると、自信は性格や才能から来たものではなく、顧客との情報格差を意識して学び続けたことの結果でした。つまり、自信は計画的につくれます。
この記事では、その経験をもとに営業の自信がどこから生まれるのかを整理し、後半では、営業組織がそれを個人任せにせず、仕組みとして用意するには何が必要かを述べます。
営業が自信を持ちにくい理由
自信が持てない理由は、人それぞれです。
- 結果が出ていない、結果の出し方がわからない
- 自分の強みがわからない、発揮できない
- 失敗が怖い、恥ずかしい(繰り返し失敗することへの恐れ)
- 成功体験がない
- 自分の理想と現実の差が大きい
- 負けたくない、嫌われたくない、争いたくない
- 言い返せない、反論されるのが怖い
営業は不確実性の高い仕事です。狙いどおりに受注できることのほうが少なく、成果をコントロールしきれないため、自信を持ちにくい職業なのかもしれません。だからこそ、文字どおり「自分を信じる」ことのできる、自分の中の揺るがない軸(強み)をつくれるかどうかが、成果に大きく影響すると私は考えています。自信が湧かない理由がわからない場合は、一度立ち止まって自分に問いかけ、原因の仮説を立てるところから始めるのがよいと思います。
私の場合、その軸になったのは専門知識でした。まずは、そこに至るまでの経緯から書きます。
自信を持てなかった新人時代
新卒1年目、23歳のとき、私は欧州系の外資系製薬会社でMRとして働いていました。MR(医薬情報担当者)は、クリニックや病院の医師、薬局の薬剤師などに医薬品の情報を提供し、適切な患者さんに自社製品を処方していただくことで売上を上げる仕事です。
初年度の個人成績は、全国のMR千数百名のうち下位10%程度でした。まったく売れず、自分の営業活動に対する自信はまったくありませんでした。
配属先の富山県
配属先は富山県でした。富山県は「越中富山の薬売り」で知られる薬の都で、北を海、東西南を山に囲まれた、地理的に閉鎖性の高い土地です。そのため、歴史のある日系製薬会社にとっては「勝てる」市場でした。
ところが、私が勤めていた外資系の会社では、その営業所は毎年、全国で47番目の評価を受け続けていました。日系製薬会社では富山への転勤が栄転と言われる一方、外資系製薬会社では「どうせ売れないから転職したら」と言われることもあるほどでした(もちろん会社によって事情は異なります)。
加えて、MR職の新卒は多くが薬学系・理系の出身です。入社後の約半年で薬学や疾病、法律、医薬の歴史などを学び、年末にはMR認定試験に合格する必要があるため、製薬会社は理系の人材を採用する傾向にあります。文系出身の私は、スタート時点からハンデを感じていました。
「できない理由」を抱えたまま
当時の私の状況をまとめると、次のようになります。
- 薬学系・理系の同期や同僚より、知識が少ない(しかも顧客は医師で、知識も経験も営業よりはるかに上)
- 自社のシェアが圧倒的に低い(売上が全国最下位の営業所に配属された)
- 前任者と顧客の関係が、良好とは言えない
振り返ると、私はこの3点を自分の中で「できない理由」にしながら仕事をしていたように思います。
つらい新人時代でした。渡した名刺を目の前でゴミ箱に入れられたこともありますし、「用件すませたらさっさと帰って」「君に言われんでもわかってるからもうええ。しばらく来んといて」といった言葉をいただいたこともあります。そうして悪循環に陥り、さらに自信を失っていきました。
転機になった小さな成果
売れず、自信もなく、営業としての自分の強みが何なのかもわからないまま1年目が終わろうとしていた冬、ほんの少しだけ成果が出ました。新しく発売された新薬で、営業所で初めての新規採用を決めたのです。
多くの新規採用を獲得できたわけでも、たくさん売れたわけでもない、本当に小さな成果でした。それでも、この小さな成果から多くのことを学びました。その中で、後に私の成長を大きく左右する確信を得ました。
それは、「まず最初に、医師と対等に会話できるだけの医学と薬学の専門知識を持たなければ、何も始まらない」という確信です。
誤解のないように補足すると、「専門知識を身につければ売れる」という話ではありません。重要なのは、営業と顧客の関係性です。営業は、顧客から「この人は信頼できる」と思われる存在になっていなければ、そもそも効果的な商談ができません。
顧客から信頼される営業の立場
営業と顧客の関係は、次の表の4つの段階に分けて考えることができます。
| 段階 | 状態 |
|---|---|
| 1. 邪魔者 | 営業が最初に置かれている立場 |
| 2. 友人 | 好感を持たれている状態 |
| 3. 専門家 | プロとしてのポジションを獲得している状態 |
| 4. 頼りになる存在 | 専門家であり、顧客から絶対的な信頼を置かれている状態 |
営業のスタート地点は「邪魔者」です。顧客から信頼され、「頼りになる存在」になるには、友人としての立場と、専門家としての立場の二つを獲得する必要があります。そして、「頼りになる存在」になったところが、本当の意味での営業のスタートです。
この二つには順序があります。何者かもわからない相手から「〇〇についてはこうすべきです」と言われても、たとえそれが正しくても、内心では「あなたに言われたくない」と感じるのではないでしょうか。そのため、まず友人としての立場を築き、その上で専門家としての立場をつくるのが基本の順序です。
ただ、私は重要なことを見落としていました。専門性が高く多忙な医師は、有益な情報を持っていない若手の営業とは、そもそも話をしたいと思いません。医師を相手にする場合、専門知識がなければ、友人としての立場すら獲得できなかったのです。新薬の発売にあたり、まだ世の中になかったものを一から勉強し、医師と対等に薬剤について話せるようになったことで小さな成果につながった経験から、私はこのことを確信しました。
一方で、知識があれば聞いてもらえる、というほど単純でもありませんでした。知識を身につけ始めた時期にも、提案の中身は的を射ているのに満足に話を聞いてもらえない、ということが続きました。相手の警戒を解き、話したいと思ってもらう部分は、知識とは別に設計する必要がありました。
友人としての立場を得るための要素
友人としての立場のゴールは、顧客に「この人、いい人だな。話したいな」と思われることです。初めて訪ねてくる営業に対して、顧客は「この人は誰だろう」「信用できるのか」「高いものを買わされるのではないか」「時間の無駄にならないか」といった負の感情を抱いています。
私は顧客の情報を事前に集め、相手の好むコミュニケーションに合わせながら、次の表の6つの要素を意識していました。
| 要素 | 商談での使い方 |
|---|---|
| 社会的望ましさ | 髪型、スーツのしわ、靴、爪、鞄の整頓といった身だしなみから言葉遣いまで、嫌われる要素をなくす |
| 自己開示 | 自己紹介などで自分のことを知ってもらい、警戒心を解いて親近感を持ってもらう |
| 好意の返報性 | 相手を褒めるなど、先に好意を示すことで、興味や好意を持ってもらう |
| 態度の類似性 | 共通点を見つけ、親近感や特別感を持ってもらう |
| 単純接触の原理 | 接触の回数を重ねるうちに、「よく知っている人」という印象を持ってもらう |
| ゲインロス効果 | 想像や第一印象と実際とのギャップによって興味を持ってもらい、良い印象をより大きくする |
いずれも当たり前のことですが、商談ごとにここまで設計するのは簡単ではありません。私は話すのが得意な営業ではなかったので、「この話をしたら顧客はどう思うか」を考えながら、商談のたびに設計していました。
専門家としての立場を得るための要素
好感を得られても、それだけでは売れる営業とは言えません。「気に入られる」と「信頼される」は違うからです。専門家としての立場のゴールは、顧客に「この人にいろいろ教わりたい」と思われることです。
商品の話を中心にせず中立的な立場で、顧客との間に情報格差がある状態で次の5つを話せれば、プロとしてのポジションは確保できます。
- 実績や事例の開示: 自分が過去に関わったプロジェクトや顧客の事例を伝える
- 将来リスクとなる情報の事前提供: 顧客がまだ気づいていない先々のリスクや問題点を伝える
- 業界動向や業界内でよくある話の共有: 顧客の業界で起きていることや市場の動向を話題にし、示唆を添える
- インサイトの提供: ほかの営業があまり言わない、顧客に気づきを与える話を用意しておく
- 視点(視座)の上げ下げ: 現場の担当者には経営の視点の話を、経営者には現場の実態の話をする
これは、いわゆる「マウントを取る」こととはまったく別のものです。若手であっても、商談を丁寧に設計すれば十分に可能です。
毎日の学習とその結果
小さな成果から確信を得たあと、私は毎日1〜2時間を次の学習に充てました。
- 自社製品に関連する疾患について、ニュースサイトのすべての記事に目を通す
- 世界の論文検索サイトで、自社製品に関連する疾患と薬剤の論文を読む
これを毎日続けたことで、専門医の先生とも処方について対等に議論できるようになりました。その結果、後から自分のコミュニケーションの特性も活き、人としてもかわいがっていただけるようになりました。知識は見せびらかすためのものでも、必殺技でもありません。ひとつのコミュニケーションの手段です。
膨大なインプットを続けるようになってから、営業成績は大きく伸び、3年目の終わりから4年目にかけて全国ランキングで1位になりました。全国最下位の営業所からの1位でした。
どれほど専門的な質問や要望、反論を受けても、筋の通った会話を自信を持って展開できるようになったことで、依頼される仕事のレベルが変わり、会話の幅も広がりました。処方に関係のない相談もされるようになり、人としての関係性も変わりました。競合とのシェアも変わりました。医師から信頼され、私だけが面談の時間をいただけるといった、特別な対応を受けるまでになりました。
これはMRに限った話ではなく、あらゆる業界の営業に言えることだと考えています。業界ごとの事情はあっても、顧客と対等に話せるだけの知識が関係づくりの前提になる点は変わりません。
計画的に自信をつくる方法
自分の経験を振り返ると、自信をつくる方法は「学び続け、変わり続けること」だと考えています。
- 学び続ける: 知識とスキルをインプットし続ける
- 変わり続ける: アウトプットを進化させ続ける
若手時代の私にとって、それは専門知識を徹底的に勉強することでした。これは間違っていなかったと、いまでも考えています。天性の話術は努力しても身につく可能性が低く、容姿やIQも短期間では変わりません。人脈も当時はそれほどありませんでした。一方で、最新の情報や専門的な情報を知ることは不確実性が低く、その効果は自分の行動だけで決まります。期待値の最も高い打ち手でした。
強みを決めるのは顧客
強みを完成させるうえで欠かせないのが、顧客の存在です。自己満足の強みには価値がありません。成功体験も、失敗の恐れからの解放も、成果も、評価も、すべて顧客が与えてくれるものです。だからこそ、顧客に価値を届けるための努力によって自信を高める必要があります。
顧客との情報格差を設計して学ぶ
顧客との情報格差とは、顧客が知りたいと思っている情報について、営業のほうが多くの情報を持っている状態のことです。顧客は、この情報格差があるときに営業を信用します。たとえば、次のような情報です。
- 過去の実績や事例
- 将来のリスクの事前予告
- 業界のトレンドや、業界内でよくある話
- そのほか、顧客が知らなかった有益な情報(最新情報を含む)
顧客との情報格差をどうつくるかを設計して学ぶことで、計画的に自信をつくることができます。売りたい製品の情報に詳しくなればよいわけではありません。必要なのは、業界の専門性やトレンド、経営にとっての価値といった情報です。これらは絶えず変わるため、学習に終わりはありません。
新人研修では製品の情報をインプットするところから始めることが多いと思いますが、営業である限り、学び続け、変わり続ける必要があります。これを続けられる営業が、成長し続け、勝ち続けると私は考えています。ある程度できるようになり、そこで学ぶことをやめてしまった人にこそ、このことをお伝えしたいと思います。
商談の事前準備
学んだことを商談で活かす場が、事前準備です。事前に商談を設計できていれば、想定外の反応に戸惑うことがなくなり、自信が生まれます。私が新規の商談に臨む際には、最低でも次の8項目を準備していました。
調査
- 企業情報(ウェブサイト、ニュース、採用サイトなど)
- 経営状況(有価証券報告書など)
- PEST(マクロ環境)
- 業界動向、業界内でよくある話
立案
- 課題の仮説
- 商談のシナリオ
- 面談の目的とゴール
- インサイトを提供するポイント
BtoBの営業であれば、顧客の経営状況や市場動向は押さえておく必要があり、財務の知識も守備範囲に入ります。たとえば有価証券報告書に目を通し、「売上は伸びているが、利益はあまり伸びていない」「売上は20%伸びているが、市場は25%伸びているので、競合に競り負けているのかもしれない」「売上は伸びているのに営業キャッシュフローが下がっているので、営業組織は順調ではなさそうだ」といったところまで、商談前に考えておきます。こうした点は、顧客企業の担当者自身が十分に把握していないことも多く、専門家としての立場を得やすい部分でもあります。
なお、私たちが2019〜2020年に日本のIT法人営業493名を対象に行ったコンピテンシー調査でも、成績上位層とそれ以外の差が大きかった項目のひとつが、商談の事前準備でした。事前準備は、自信の源であると同時に、成績を分ける行動でもあります。
自信が成果につながる条件
自信のない営業からは買いたくない、自信のある営業は信頼できそうだ、という感覚は、多くの方がすでに持っているのではないでしょうか。自信があることは、営業のパフォーマンスに大きく影響します。
ただし、営業が最高のパフォーマンスを発揮できるのは、次の二つが揃ったときです。
- 営業自身が、自分に対する自信を持っていること
- 顧客が、その営業に価値を感じていること
自信があっても、その価値を顧客に届けられていなければ、それはただの過信です。自信は、顧客との情報格差という裏づけがあって初めて成果につながります。
勝者のメンタリティ
ここまで書いてきた学習と準備は、自信の裏づけをつくる方法です。もうひとつ、多くのトップセールスやトップセールス経験者と接する中で、売れる人、競争に勝てる人に共通するマインドセットがあると感じてきました。営業に限らず、アスリートやビジネスパーソン全般に言えることかもしれません。私はこれを「勝者のメンタリティ」と呼んでいます。なお、ここで扱うのは営業パーソン自身の内面の持ち方であり、顧客に対する態度の話ではありません。
敗者のメンタリティと勝者のメンタリティ
一般的には、次のような「頑張る」精神で自分を動機づける人が多いのではないでしょうか。
- 頑張らなければ
- 負けたくない
- 稼がなければ
- 勝ったら自慢したい
自分を弱い立場に置き、成功の階段を上るストーリーを当てはめて自分を奮い立たせる考え方です。謙虚さや努力といった、日本人が美徳とする感覚から来ているのかもしれません。しかし私は、これを「敗者のメンタリティ」の根源だと考えています。勝負が始まった瞬間から、「負けている」ことが前提になっているからです。
勝者のメンタリティは、その逆の考え方です。
- 競争に勝って当たり前
- あの人に負けるはずがない
- 自分はすごい
- 負けたら恥ずかしい
目指すゴール(売上目標など)は同じでも、そこへの向き合い方が異なります。私の経験では、文化的な背景からか、日本人は前者の考え方をする人のほうが圧倒的に多い印象があります。後者は傲慢に感じられるかもしれませんが、私は勝者のメンタリティに切り替えることを勧めています。
勝者のメンタリティの効果
勝者のメンタリティに切り替える最大の利点は、心理的な余裕と安心を確保できることです。
- 勝って当たり前なので、勝つために必要なことをやるのも当たり前になり、高いモチベーションを安定して保ちやすくなる
- 「負けは許されない」という意識が働き、やり抜く力が湧く
- 無意識のうちに自己肯定をしているため、必要な自信を持つことができ、不要な不安に時間を取られない
勝者のメンタリティを持つ人は、「私に任せてください」「一位になります」「焦らなくて大丈夫、必ずうまくいきます」といった言葉を口にします。ただの大言壮語であれば恥ずかしいだけですが、彼らは本気で言い、実際に成し遂げてしまいます。
謙虚さは学びに対する姿勢
勝者のメンタリティは、謙虚さに欠けると受け取られがちです。しかし私は、謙虚さとは学びに対する姿勢のことだと考えています。「自分はできる。だから学ばなくてよい」は謙虚さを欠いた考え方です。「自分は一番でなければならない。だから学びを欠かさない」というのが、勝者のメンタリティです。この点で、勝者のメンタリティと、前に書いた「学び続け、変わり続けること」は同じものの表と裏です。
負け癖の口癖
敗者のメンタリティを持っていると、負け癖がつきます。次のような口癖に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。
- 自分なんてどうせ
- あの人はすごいから
- 頑張ってはみますが
- 皆様のお力をお借りしながら
謙虚さやへりくだりに見えますが、実際には言い訳を許しているだけで、負け癖につながります。
勝者のメンタリティの育て方
このメンタリティは、幼少期から運動や勉強ができた、両親に褒められて育ったといった、自己肯定感の強い人に多いのは事実だと思います。ただ、そうした環境で育っていないからといって、あきらめる必要はありません。いつでも切り替えられます。
方法は、毎日自分に言い聞かせ、大きなことを口に出すことです。セルフアファメーション(自己肯定)と呼ばれ、心理学でも効果が研究されてきた方法です。「今日も多くのお客さんの役に立ち、営業成績も一位を取る。解決できない問題はない」といった調子でかまいません。本気で口に出すことが大切です。
私自身を振り返ると、MRとして全国1位になったときも、その後に仕事を変えたときも、SNSで発信を始めたときも、最初は自信も、能力も、肩書きも、信頼もありませんでした。そこにあったのは、勝者のメンタリティでした。
組織として取り組めること
ここまでは個人の経験を中心に書いてきました。ただ、自信の源が「顧客との情報格差」と「顧客が価値を感じている状態」にあるのなら、それは本人の性格の問題ではなく、組織が設計できる対象です。営業責任者の立場から見ると、取り組めることは次の五つです。
学習の範囲を製品知識の外に定める
顧客が営業を信用するのは、顧客が知りたい情報について営業のほうが情報を持っているときです。新人研修や育成の内容が製品知識と話法で止まっていると、顧客との情報格差はつくれません。業界の専門性やトレンド、経営にとっての価値、将来のリスク、事例といった情報を、学び続ける対象として組織で定めておくことが、営業一人ひとりの自信の土台になります。SHOGUNではセールスイネーブルメントを、営業人材が継続的に成果を上げられるよう、育成とナレッジの仕組みを設計する領域と捉えています。何を学ぶかを個人の関心に委ねず、組織として定義するところが出発点です。
情報のストックを組織で持つ
若手の営業には、顧客に提供できる情報のストックがあまりありません。商談のたびに上司やトップセールス、ベテラン社員から情報を仕入れ、自分の武器として書き留めておくことが有効です。ただ、実績や事例、業界でよくある話、顧客に気づきを与える話は、個人がばらばらに集めるより、組織で集めて若手が引き出せる形にしておくほうが早く、確実です。トップセールスの頭の中にある話を、誰もが商談で使える形にしておくことが、ナレッジの型化です。
商談前の準備を型にし、確認する
先に挙げた8項目の事前準備は、私が個人の習慣として続けていたものです。しかし、組織として営業の質を保つなら、準備を個人任せにしないほうがよいと考えています。2020年に営業チームを預かったときは、案件ごとに、その商談のゴール、方向性、課題の仮説、インサイトを提供するポイント、聞くこと・握ること、懸念点を書く運用にしました。私がすべての商談に同行できなくても、この準備があれば商談の質をある程度そろえられるからです。
研修で学んだことが現場で続かないのは、学んだ内容を使う場面と、使われたかを確かめる手順が決まっていないためです。準備の項目を決めるだけでなく、商談レビューで「準備の8項目が埋まっているか」を確認するところまでが、実行の設計です。SHOGUNでは実行を、決めたことがマネージャーと担当者の実際の動きに変わることと定義しています。493名の調査で事前準備が成績を分ける項目だったことを踏まえると、準備の有無は個人の姿勢の問題ではなく、組織が確認すべき行動です。
基本の基準を高くする
好感獲得や専門家としての立場の獲得は、特別なことではありません。一方で、正解が明文化されていない部分でもあります。身だしなみや自己紹介、商談の事前準備といった基本について、組織として求める水準を明確にし、その水準を高くしていくことが、個人のセンスに頼らない育成につながります。
口癖を観察し、精神論で押さない
「自分なんてどうせ」「頑張ってはみますが」といった負け癖の口癖は、日々の会話の中でマネージャーが最初に気づける兆候です。ただ、そこで「もっと自信を持て」と言っても、自信は生まれません。自信は、顧客より確かに知っていることがある、という裏づけからしか生まれないからです。マネージャーにできるのは、何を学び、何を準備すれば顧客より詳しくなれるかを本人と一緒に決め、それが実行されたかを確かめることです。勝者のメンタリティは、学習と準備の裏づけがあって初めて、過信ではなく自信になります。
私自身、MR時代だけでなく、コンサルティングの仕事に移ってからも、営業とセールスという分野の勉強は欠かさずに続けてきました。営業が営業である限り、学び続け、変わり続ける必要があるという考えは、いまも変わっていません。営業の自信は、本人の学習と、それを個人任せにしない組織の設計の両方でつくられます。

