セールステック

SFA導入が失敗する2つの理由と対策

この記事の要点

セールステックが日本にも浸透し始め、営業組織をデジタルで変えようとする企業が増えています。その中心にあるのが SFA(CRM)です。一方で、SFAを導入したものの、運用がうまくいかずに終わる企業も少なくありません。ハンモックが2021年に、SFAを導入した従業員300名以上の企業の経営者・役員305名に行った調査では、SFAの機能を一部しか使っていない、データを入力するだけ、あるいはまったく利用していない、と答えた企業が合わせて63.2%でした。すべての機能を使えていない理由としては、「使いこなすのに時間がかかる」(52.3%)に次いで「入力したデータが活用できていない」(30.1%)が挙がっています。導入した企業の6割以上が、SFAを期待どおりには使えていないことになります。

なぜそうなるのか。すべてを網羅するのは難しいのですが、理由は大きく分けて2つあると私は考えています。

  1. 現場の入力が定着しない
  2. 入力されたデータをうまく活用できず、費用対効果が見合わない

この2つは別の問題に見えますが、根は同じです。SFA(Sales Force Automation)とは、営業活動と案件を数字として残すための道具です。その数字を誰がいつ読み、何を決め、決めたことをどう実行させるかが設計されていなければ、現場には入力する理由がなく、会社には費用対効果が生まれません。SHOGUNでは営業マネジメントを「計測・判断・実行」の三つで捉えていますが、この記事の理由1は主に計測の設計が、理由2は判断と実行の設計が抜けていることから起きる問題です。

この記事では、それぞれの背景と、失敗を未然に防ぐための対策、自社で確かめておきたい点を順に書きます。これからSFAの導入を検討している方にも、すでに導入している方にも参考になるよう、できるだけ中立的な立場で書くことを心がけました。もとになっているのは2020年に書いた文章ですが、2026年の時点から見て補足したい点も最後に加えています。

理由1:現場の入力が定着しない

SFA導入の失敗で最も多いのが、この理由です。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。2020年ごろまでに私がコンサルティングで支援した会社のうち、SFAを導入していて入力が定着していた会社は、肌感覚でせいぜい1〜2割程度でした。

営業担当者の多くは、営業活動以外の業務、つまり報告や分析、書類作成といった事務作業を得意としていません。ITリテラシーの高い人材も、それほど多くはありません。そして極端に言えば、SFAに情報を入力しなくても、売れていればそれで評価されます。

私自身、営業職の出身で、SFA(CRM)を使う側にいました。上司から活動情報の入力を求められていましたが、正直に言って面倒な作業でした。入力されない原因を突き詰めると、次の2つに行き着きます。

  • システムが複雑で、現場が使いこなせない
  • 入力するメリットが感じられない(管理者のためのツールになっている)

入力が定着しない背景

会社の側から見ると、営業活動がブラックボックス化し、Excelでの営業管理が限界を迎え、属人化がリスクだと認識され始めています。その対策としてSFAの導入に踏み切る企業が多いのですが、先に書いた通り、それを望んでいる営業担当者は多くありません。「営業管理システムを入れるらしいけれど、管理されるのは御免だ」という反応が返ってくるのが普通です。

こうした状況で導入して成功する企業は、むしろ少数です。うまくいかない企業には、次のような共通点があります。

  • 導入をやりきる実行力がない
  • マネージャー層がSFAの必要性を認識していない
  • 「うちの会社(業界)は特殊だから」という理由で、やらない言い訳をする
  • 「管理」が業績を上げるための手段であることを忘れ、管理すること自体が目的になっている
  • 管理が目的になっているために不要な要件がふんだんに盛り込まれ、現場にとって使う気が失せるシステム設計になっている

当てはまる点があれば注意が必要です。特に最後の2つはつながっています。管理が目的になると、「念のため」に入力項目が増えていきます。項目が増えるほど入力の負担は重くなり、現場から見たメリットはさらに見えにくくなります。

入力を定着させるための対策

入力を定着させるためにやるべきことは、次の8つです。

  1. 導入目的に、管理だけでなく「どれくらい成果を出すか」という指標を設定する。 「営業活動を見える化する」だけでは、何が達成されたら成功なのかが決まりません。売上や受注率など、成果の側の指標を目的に入れておきます。
  2. 営業マネージャーや現場に、その目的を浸透させる。 目的を知っているのが導入の担当者だけでは、現場にとっては「管理のための入力」のままです。
  3. 営業会議や経営会議では、SFAのデータをもとにディスカッションする。 Excelでの報告を廃止する、という決断も含みます。会議で使われないデータは、入力する理由がありません。
  4. SFAのデータをもとに、メンバーへのフィードバックを習慣にする。 入力した情報が自分への具体的な助言として返ってくると、入力は自分のための作業になります。
  5. 業務フローを見直し、BPR(Business Process Reengineering:業務プロセス改革)に着手する。 既存の業務の上にSFA入力を足すだけでは、負担が増えるだけです。
  6. 管理のためではなく、業績を上げるために分析したいデータから逆算してSFAを設計する。 たとえば、A社と競合したときの受注率と、B社と競合したときの受注率を知りたいから、競合情報の入力項目を設ける、という考え方です。
  7. SFAの設定を常に見直し、項目を足したり引いたりしながら改善を続ける。 最初の設計が最後まで正しいことはありません。
  8. SFAから得られた情報をもとに施策を立案する。 データが施策に変わるところを現場が目にすると、入力の意味が伝わります。

これらを実施している企業は、ほとんどがうまくいっています。ただし、どれも簡単ではなく、相当なコミットメントが求められます。外部の支援が必要になるケースも多いでしょう。裏を返せば、SFAは安易な気持ちで導入するものではありません。このリスクを正しく伝えないまま契約に持ち込むSFAベンダーの営業にも、問題があると考えています。

8つを見渡すと、入力を定着させる対策の大半は、入力そのものの工夫ではないことが分かります。会議で使う、フィードバックに使う、施策に使う。つまり、入力されたデータを読み、判断し、動く場が先にあって、入力はその結果として定着します。自社がどの状態かは、次の点で確かめられます。

  • 営業会議は、SFAの画面かSFAから出した数字で進んでいるか。Excelや口頭の報告が並走していないか
  • 入力項目の一つひとつについて、「この項目は何の分析に使うか」を答えられるか。答えられない項目は「念のため」の項目です
  • 入力率そのものが、管理職の評価指標になっていないか
  • 入力の時間が、業務の流れの中に確保されているか。個人の努力に頼っていないか

具体例:内勤日と失注データの分析

3番目と8番目について、私自身が実際にやったことを書いておきます。2020年、SFAを提供するスタートアップ企業で営業マネージャーを務めたときのことです。

SFAを提供している会社であっても、すべての案件で入力漏れがない状態を保つのは、非常に難しいことでした。そこで毎週月曜日を「内勤日」にしました。内勤日の時間の使い方は、次の表の通りです。

時間帯 やること
月曜の午前 案件情報を更新する
月曜の午後の最初 フォーキャスト(売上見込み)のミーティング
月曜の夕方 各メンバーとの案件レビュー
火曜〜金曜 商談に集中する

週の初めに一週間分の動きを整理し、火曜から金曜は商談に集中する形です。会議がSFAのデータを前提に進むので、更新していなければ会議に参加できません。入力を個人の努力に頼るのではなく、業務の流れの中に組み込んだということです。

もう一つは、蓄積された失注データの分析です。約2,400件の失注案件について、どういう案件を落としているのか(属性分析)、なぜ落としているのか(原因分析)を一つずつ確認しました。その結果、失注には製品の機能が原因のものと、営業の進め方が原因のものがあることが分かりました。

  • 機能が原因の失注については、半年以内に開発される予定のない機能を必要とする案件は、早めに見極めて追わないことにしました。
  • 営業が原因の失注では、意思決定者や推進者(キーパーソン)を把握できていないこと、契約時期の根拠(その時期までに契約しなければならない顧客側の差し迫った理由)を握れていないことが、機能要因を除いた失注の半分強を占めていました。そこで、この2点を確認する手順を商談の進め方に組み込みました。

あわせて、商談で「握るべき項目」をSFA上で管理するようにしました。MEDDIC などの営業手法を参考に、顧客の課題、契約時期の根拠、意思決定のプロセス、社内の推進者、決裁者、予算、意思決定の基準、効果測定の方法、懸念事項といった項目です。商談フェーズも、「担当者との合意」「意思決定者との合意」「時期と金額の合意」のように、誰と何を合意したかで区切るように設計し直しました。フェーズを進める難易度は上がりましたが、その分、売上見込みの精度が上がりました。

どれも、「分析したいことから逆算して入力項目を決める」「データを施策と会議に使う」という対策の具体例です。失注理由を後から分析できたのは、失注時に理由を残す入力があったからで、入力項目の設計と、それを読む場の設計は切り離せません。

理由2:データを活用できない

2つめの理由は、SFAを提供する業界の側にも原因がある問題だと、個人的には思っています。

いまのSFAは、一部のエンタープライズ向けを除いて、SaaS(クラウド型)が主流です。とはいえ、個別に開発を入れれば、ほとんどのニーズは叶えられます。ところが、ニーズをすべて叶えた結果、まったく運用されない、成果の出ないシステムができあがる、という事態がよく見られます。個別開発の是非は長くなるので、ここでは要点だけ触れます。

費用対効果が出ない背景

SFAが「営業管理ツール」として見られている。 そもそも SFA は Sales Force Automation の略で、営業の成果を自動的に最大化するためのソフトウェアのはずです。それが、管理のための道具として導入されています。

SFAベンダーが、顧客のニーズを叶えるために個別開発を許容しすぎる。 その結果、本来見るべき指標が失われ、設計が複雑になって入力されにくくなり、運用フローも複雑になって、ベンダーのカスタマーサクセスの支援も受けにくくなります。

「誰のための」システムなのか、という思想が抜け落ちている。 よくある導入の進め方は、次のどちらか、あるいは両方です。

  • a. 営業組織の管理者が、自分の見たい指標を見るための要件定義をする
  • b. 管理部門やシステム部門が、必要な要件を定義する

aの場合、その人のニーズは満たせますが、その人の考えを超えるものはできません。その人が業界でも屈指の人材で、他社を含めて誰にも超えられない存在であり、かつSFAを熟知していれば、素晴らしい要件定義になります。しかし、その可能性は極めて低いと言ってよいでしょう。厳しい言い方になりますが、自分の顕在ニーズが必ずしも正しいとは限らない、という前提に立つ必要があります。

bの場合は、営業現場の実情が考慮されない、使いづらいシステムになる可能性が非常に高くなります。そして「何を管理し、どう分析したいのか」という部分が抜け落ち、効果が出ません。

aとbのどちらでも、システムは複雑で使いづらくなりがちです。さらに、「最近こういう受注傾向があるから、このデータを取りたい」となったときに、システム部門などの合意を取り直し、場合によっては追加開発をして、時間をかけて設計し直すという工数が発生します。これでは改善のサイクルが回る速度は極めて遅く、効果は見込めません。

導入の検討がどこから始まるか、という点も関係しています。SFA導入のきっかけの多くは、「Excelでの管理が限界を迎えている」「今のSFAを使いこなせない」といった、目の前の困りごとの解消です。「営業組織をこうしていきたい」という目的から逆算して検討が始まるケースは、あまり多くありません。目的が抽象的なままだと、「案件が可視化された」「入力率が上がった」という状態が、いつのまにかゴールにすり替わります。入力率そのものを管理職の評価指標に置くと、入力率はきれいに上がりますが、営業成果は変わりません。

費用対効果を出すための対策

費用対効果を出すために押さえるべきことは、次の6つです。

  1. 営業成果を最大化するための普遍的な指標を認識し、それが必ず見られるように設計する。 たとえば、売上は「商談数 × 成約率 × 単価 ÷ リードタイム」で表せます。この4つの指標を可視化することが出発点です。
  2. 「なんでもできる」という個別開発に振り回されない。
  3. 営業現場(主にマネージャー)がSFAの目的を理解し、自分たちで設定を変えながら改善を続けられるプロダクトを選ぶ。 項目を一つ足すたびにシステム部門や追加開発を待つ構造では、改善が追いつきません。
  4. 成果を出すという目的を、絶対に見失わない。 前の項目と重なりますが、それほど重要です。
  5. 組織として成果を出す方法を本質的に分かっている人材を確保する。 プレイヤーとして売れる力ではなく、組織として成果を生み出す方法を知っている人材です。社内にいなければ、コンサルタントを付けるか、優秀なカスタマーサクセスの支援を受けます。
  6. 価値のある営業データを集めるために、最低限ユーザーフレンドリーな画面のプロダクトを選ぶ。 入力されなければ、どれだけ高機能でもデータは集まりません。

1番目の4つの指標は、見られるようにしただけでは意味がありません。同じ定義で毎月そろって出てくること、つまり分子と分母が固定されていることが前提です。「成約率」一つとっても、分母を商談数にするのか提案数にするのか、分子を受注件数にするのか受注金額にするのかが人によって違えば、先月との比較も、担当者間の比較もできません。

そのうえで、指標を読み解く力が要ります。たとえば「大手顧客の受注率が、直近3か月で下がっている」と分かったとき、すぐに受注率を上げる対策を打ちたくなります。しかし、先に確かめるべきことがあります。受注が減ったのか、商談が増えたのか(分母の変化)。どの商談ステージの間で落ちているのか。失注までの日数は伸びているのか、縮んでいるのか。特定の担当者だけの傾向なのか、全員なのか。同じ「受注率の低下」でも、原因によって打ち手はまったく変わります。指標を設計するのと同じくらい、指標を読み解く力が要りますし、その読み解きを誰が、いつ、どの場で行うのかが決まっていなければ、数字は画面に表示されたまま終わります。

5番目の人材について補足すると、SFAを提供する会社のカスタマーサクセスの担当者は、プロダクトの使い方には詳しくても、営業組織そのものを分析して対策を立てる専門家とは限りません。能力の問題ではなく、多くの場合それがサービスの範囲の外にあるという役割の問題です。そのため、導入する側の会社に、この役割を担える人を置いておく必要があります。

これらも、難易度は非常に高いものです。一方で、ここを押さえることができれば、投下したコストを上回るリターンはほぼ確実に得られると私は考えています。2022年に公開された国内の営業に関する調査(Japan Sales Report 2022 Winter)でも、セールステックを導入している企業群のほうが、そうでない企業群よりも売上が成長している会社が多いという結果が出ていました。ただし、売上が伸びている会社だからセールステックに投資できている、という逆の因果の可能性もあり、この点は割り引いて見る必要があります。

自社がデータを活用できる状態にあるかは、次の点で確かめられます。

  • 商談数・成約率・単価・リードタイムの4つを、同じ定義で先月と今月で比べられるか
  • 入力項目を一つ足すのに、誰の合意が要り、何日かかるか
  • 過去1年の失注理由を、集計できる粒度で残しているか。「その他」や自由記述ばかりになっていないか
  • SFAの数字を読んで打ち手を決める役割が、誰の仕事として決まっているか。導入担当者でもベンダーでもなく、営業の責任者かマネージャーの仕事になっているか

成功のための3つのポイント

ここまでをまとめると、SFA導入を成功させるための最重要ポイントは次の3つです。

  • 成果を出すという目的を正しく設定し、それに向けた運用にコミットすること
  • 現場にとって使いやすい設計(画面を含む)になっていること
  • 自分自身のニーズを疑い、安易な個別開発に逃げないこと

導入前に設計しておくこと

冒頭で、2つの理由の根は同じだと書きました。ここまでの対策を、SFAを入れる前、あるいは入れ直す前に決めておくべきことに言い換えると、次の3つになります。

何を測るか。 成果の指標と、それを分解した指標(商談数、成約率、単価、リードタイム、競合別の受注率など)を決め、分子と分母を固定します。入力項目は、この分析から逆算して最小限にします。「見える化したい」から始めると項目は増える一方ですが、「この数字を読みたい」から始めると項目は絞られます。

誰が、いつ、何を決めるか。 週次の営業会議、案件レビュー、月次の経営会議のどこで、どの数字を見て、何を決めるかを先に決めます。Excelや口頭の報告を残したままSFAを足すと、SFAは二重入力の対象になります。会議の材料をSFAに一本化する決断が、入力を定着させる最も強い施策です。

決めたことが実行されたかを、どう確かめるか。 会議で決めた打ち手が翌週の行動に変わったかを、申告ではなくSFAの記録で確認する手順を決めます。フィードバックと施策立案が回り始めると、現場は入力の意味を自分で理解します。

SFAの導入や研修の実施だけでは営業改革になりません。SFAは計測の道具であり、営業改革のインフラになり得ますが、目的ではなく手段です。判断と実行が設計されていない組織にSFAを入れても、道具と手順は整いますが、何を読み何を決めるかは決まりません。逆に、この3つが決まっていれば、どのSFAを選ぶかは二番目の問題になります。

2026年の時点から見て

この記事のもとになった文章を書いてから数年が経ち、SFAを取り巻く環境は大きく変わりました。商談の音声を自動で文字起こしし、メールのやり取りを解析して活動履歴を記録する、いわゆる「入力しなくていいツール」が現れています。1つめの理由である入力の負担は、AIによってかなりの部分が解消されつつあります。

ただし、AIが自動で記録してくれるのは、商談の音声やメールの往復、訪問の履歴といった「起きたこと」です。案件のフェーズをどこで区切るのか、失注理由をどの粒度で分類するのか、どの顧客属性を残せば後から意味のある比較ができるのか。この設計は、AIが決めてくれるものではありません。全体像がないまま記録だけが溜まると、量はあるのに何も読み取れないデータベースができあがります。

2つめの理由である「データを成果に結びつけられない」という問題は、AIの登場で易しくなったわけではありません。データを設計し、読み解き、打ち手に変え、実行させ切る。この一連ができていない組織は、Excelの時代にもできていませんでした。入力の負担が減るほど、SFAの成否を分けるのは、何を測り、それを誰がどう使うのかという組織の側の設計になっていきます。2020年に書いた対策の多くは、その意味でいまも変わっていないと考えています。

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