営業組織改革

ルート営業・既存顧客深耕営業をどうマネジメントするか

この記事の要点

営業組織のコンサルティングに携わっていると、ルートセールス(既存顧客営業)の実績のマネジメントや、売上拡大の施策立案に悩んでいる企業がとても多いと感じます。ルートセールスとは、既存の顧客と定期的に接触して関係を保ちながら、継続購入と追加の案件を生み出していく営業のことです。IT系の企業や設立から間もない企業、B2Bの高額商材を扱う企業では新規営業の割合が高い一方で、大企業や設立から年数が経った企業ほど、既存顧客へのルートセールスの割合が高くなります。米国と比べても、日本はエリア型・ルート営業・アカウント営業の比率が高い市場です。

ところが、新規営業では「プロセス管理」「パイプライン管理」の考え方が広まったのに対して、ルートセールスのマネジメントには標準的な手法がまだ広まっていません。その結果、多くの現場では「訪問量を増やそう」という指示が、ほとんど唯一のマネジメントになっています。

この記事の主張は二つです。一つは、ルートセールスの売上は「ターゲティング×(活動量×商談の質)」に分解でき、改善の効果は上流ほど大きいため、訪問量は最後に手をつける要素だということ。もう一つは、ルートセールスにも「案件」という概念を置き、新規営業と同じようにプロセスで管理しなければ、既存顧客からの売上は目減りしていくということです。売上の構造、営業改革の全体像の中での位置づけ、管理の型、追うべき指標、その裏側にある商談の進め方の順に整理し、最後に自社で確かめる点を挙げます。

管理の型がないルートセールス

新規営業では、営業活動を次のようなプロセスに分け、漏斗(ファネル)のイメージで各フェーズの歩留まりを集計して課題を見つけ、ベストプラクティスとの差分から改善していくやり方が、ある程度広まってきました。

  1. 見込み顧客
  2. アポイント獲得(テレアポ)
  3. 初回面談(ヒアリング)
  4. 提案(プレゼンテーション)
  5. クロージング
  6. 受注

一方で、ルートセールスのマネジメント手法には標準的なものが広まっておらず、苦労しているマネージャーがとても多いのが実情です。ルートセールスのほうが施策の効果が見えにくく、手法が定着しにくいという事情もあります。

効果が見えにくい理由は、何を測れば判断できるかが決まっていないことにあります。新規営業ではフェーズごとの歩留まりという共通の物差しがありますが、ルートセールスでは「訪問件数」以外の数字が定義されていない組織が多く、施策を打っても、効いたのかどうかを確かめる手段がありません。以下では、その物差しをどう置くかを順に整理します。

売上を三つの要素に分解する

既存顧客深耕営業の売上は、次のように分解できます。

売上(Sales)= ターゲティング(Targeting)×(活動量(Quantity)× 商談の質(Quality))

営業活動をこのように構造的に捉え、追うべき指標を整理しながら情報を収集・蓄積していくことで、売上の向上に役立てることができます。3つの要素で確認するポイントは次のとおりです。本人の意欲(Will)という要素もありますが、ここでは扱いません。

  • ターゲティング: 競合に勝つために、ポテンシャルの高いターゲットに狙いを定めてアプローチしているか
  • 活動量(量とアクセス): 競合に勝つために、最適な頻度で訪問や情報提供を行っているか
  • 商談の質: 顧客のニーズを把握し、相手に響くメッセージを伝えられているか

ルートセールスのマネジメントは、この分解に沿った「顧客管理」が中心になります。求められるのは、次の3点です。

  1. 正しいターゲットに
  2. 正しい回数で
  3. 高いクオリティで

アプローチすることです。重要度は 1 > 2 > 3 の順に高くなります。上流の要素ほど、改善したときの効果が大きいためです。ターゲットの選び方が間違っていれば、訪問回数を増やしても、商談の質を上げても、その努力は伸びしろの小さい顧客に注がれることになります。

実際の運用では、まずターゲティングで Tier などの考え方を使って顧客にランク(優先順位)を付けます。次に、ランクごとに1か月間で何回接触するかといった行動量の目標を設定します。そのうえで、ロールプレイなどで質を担保しながら営業活動を行います。

ただ、このやり方だと、商談の質の部分がブラックボックスになりやすくなります。そこで、面談の中身を次のように分けて集計し、その割合を可視化する必要があります。

  • 関係構築
  • ニーズヒアリング
  • 提案
  • 価格交渉

「訪問した」という記録だけでは、その訪問が関係構築で終わったのか、提案まで進んだのかがわかりません。中身を分けて記録して初めて、活動量の数字が商談の質の数字につながります。

営業改革の全体像での位置づけ

この分解を、営業改革の全体像の中に置くと次のようになります。進め方は4つの段階に分かれ、最後の段階から最初の段階へフィードバックが戻ります。

  1. Strategy(戦略): 経営が担う範囲です。確認項目は PEST、SWOT、ファイブフォース(Five Forces)、3C、4P です。
  2. Targeting(ターゲティング): ここから先が営業の範囲です。確認項目はセグメンテーション、ビジネスポテンシャル、Tier、アクションプランです。
  3. Action(行動): 確認項目は行動量と行動比率です。
  4. Quality Check(質の確認): 確認項目は受注率、案件単価、リードタイム、案件の進捗状況です。ここで得た結果を Strategy にフィードバックします。

このうち、SFA が扱うのは Action と Quality Check の実行フェーズだけです。SHOGUN では、営業戦略を営業改革の前段として分けて扱っていますが、この図の Strategy がその営業戦略にあたり、Targeting から Quality Check までが、営業改革で設計し、営業実行で日々進めていく範囲です。営業改革を進めるときは、SFA の範囲に入らない上流の課題も把握しておく必要があります。ターゲティングが設計されていない状態で SFA を入れても、残るのは「誰にでも同じ回数だけ訪問した」という記録であり、そこから読み取れる示唆はほとんどありません。

この全体像で見ると、ルートセールスでよく言われる「訪問量を増やせ」というマネジメントは、かなり下流の話です。現実には、訪問量を頑張って増やしても、それほど大きな効果は出ません。

それよりも、次のような会話のほうがずっと生産的です。

  • Tier1 の顧客への活動比率を増やそう
  • その顧客は本当にビジネスポテンシャルが大きいのか
  • この顧客の3か月のアカウントプランはどうなっているか

この三つの問いは、それぞれターゲティング、セグメンテーション、アクションプランに対応しています。マネージャーがメンバーとこの会話をできるかどうかが、上流を扱えているかどうかの目安になります。

ルートセールスの管理の型

キャッシュポイントを整理する

まず、営業におけるキャッシュポイントを整理する必要があります。大きく分けると次の3つです。

  1. 新規案件の受注時
  2. 継続購入時
  3. アップセル・クロスセル

このうち、2と3は既存顧客からの売上です。したがって、「どれだけ長い期間買ってもらうか」と「既存顧客からどれだけ追加の案件を生み出せるか」が、ルートセールスの役割だと言えます。

営業の種別ごとに管理手法を分ける

営業の種別ごとに営業の特性があり、マネジメントの手法も異なります。管理の方法ごとに、対象となる営業の種別と主な手法を整理すると、次の表のようになります。

管理の方法 対象となる営業 主な手法
案件管理 新規顧客営業/既存顧客深耕営業のうち、新規店舗への展開(クロスセル)と新規商材の提案(アップセル) パイプライン管理(売上予測)、プロセス管理(案件の進捗・歩留まり)、アクション管理(活動量・比率)
顧客管理 既存顧客深耕営業のうち、既存商材の継続取引 顧客情報管理、アカウントプラン管理、アクション管理(活動量・内容・比率)

これらすべての土台として顧客情報の管理があり、実績の管理は基幹システムで行います。

この整理で大事なのは、ルートセールスの一部は案件管理で見るべきだという点です。「ルートセールスだから顧客管理」と一括りにすると、クロスセルとアップセル、つまり既存顧客から追加の売上を生む活動が、進捗も歩留まりも見えないまま進むことになります。

ルートセールスにも「案件」を置く

このように整理すると、管理の際には、ルートセールスの中にも「案件」という概念が必要になることがわかります。

ルートセールスの管理者からは「うちには案件という概念はありません」という声をよく聞きますが、これがうまくいかない原因です。ルートセールスでも、案件を生み出していかなければ売上は目減りしていきます。かつては、既存顧客を大事にしていれば、その顧客が成長している限り売上も自然に伸びる環境がありましたが、いまはそうではありません。

定期的に顧客と接触して関係を築いていく中で、次のようなタイミングで案件が発生します。

  • 新商品が発売されたとき
  • 顧客のニーズをつかんだとき
  • キャンペーンのとき

案件が発生した後は、新規営業と同じようにプロセス管理が有効です。そのため、ルート営業では次の3つを中心に管理します。

  • 既存顧客からの新規案件の発生数と発生率
  • 案件ごとの進捗
  • 既存顧客からの売上のうち、追加で獲得した金額の割合

この3つを中心に管理することで、新規営業と同じように、データにもとづいて狙って売上を上げる仕組みを作れるようになります。案件の発生数と発生率は「顧客管理の活動が案件を生んでいるか」を、案件ごとの進捗は「生まれた案件が受注に向かっているか」を、追加獲得の割合は「その結果が売上に表れているか」を示す数字です。三つがそろうと、既存顧客からの売上が、なぜ増えたのか、なぜ減ったのかを説明できるようになります。

三つの要素で見る指標

冒頭の分解に沿って、それぞれの要素で何を見るのか、そしてマネージャーがその数字をどう読むのかをまとめます。

ターゲティング

ターゲティングが機能しないと、現場は疲弊する一方になります。3つの要素の中で、最も効率化と最適化が必要な領域です。

顧客のセグメンテーションは、2つの軸で行います。一つは顧客自身の売上(事業の規模)、もう一つは、その顧客の総発注額に占める自社のシェアです。2つの軸で分けた4つの区分は、次の表のとおりです。

区分 顧客の売上 自社のシェア
A 重点ターゲット 大きい 高い
B 開拓ターゲット 大きい 低い
C 安定基盤 小さい 高い
D 優先度低 小さい 低い

A は守りの対象、B は攻めの対象で、B を A に引き上げることを狙います。

B は、顧客の発注額が大きいのに、その多くが競合に流れている顧客です。自社の売上だけで顧客を見ていると、いま取引額の小さい B は優先度が低く見えますが、伸びしろが最も大きいのはこの層です。

これとあわせて、Tier によるターゲティングを行います。自社の売上が大きい順に顧客を並べ、例えば上位40%までの顧客を Tier1、40〜60%を Tier2、60〜80%を Tier3 とします。

読み方としては、A と B に活動が集まっているか、B が A に移っているかを見ます。C に活動の大半が使われているなら、守りやすい顧客に時間を使っているだけで、売上は増えません。

活動量

活動量では、「とにかく何件訪問しろ」という古いスタイルから、計画にもとづいて効率よく狙って獲る営業へ変えていくことを目指します。

見る指標は次の2つです。

  • 活動量: 月ごとの活動量の推移
  • ターゲット比率: 活動全体のうち、Tier1・Tier2・Tier3 のそれぞれに向けた活動の割合

読み方としては、活動量の総数より、ターゲット比率を先に見ます。総数が増えていても Tier3 への訪問が増えているだけなら、売上にはつながりません。逆に、総数が変わらなくても Tier1 への比率が上がっていれば、ターゲティングが行動に反映され始めています。

商談の質

商談の質では、正確な情報がそろわないことから生じる、曖昧な報告や意味のない「詰め」の文化をなくすことを目指します。

見る指標は次の2つです。

  • 有効活動数: 月ごとの活動を、ヒアリング、関係構築、提案といった中身ごとに分けて集計したもの
  • 案件進捗: 得意先ごとに、アポイント取得、ヒアリング、提案、見積、最終合意、受注のどの段階まで進んでいるか

読み方としては、関係構築の比率が高いまま提案に進まない得意先がどこか、提案まで進んだのに見積や最終合意で止まっている得意先がどこかを見ます。数字で止まっている場所が特定できれば、マネージャーの問いは「なぜ売れないのか」ではなく、「この得意先の提案が見積に進まない理由は何か」に変わります。詰めの文化がなくなるのは、精神論をやめたからではなく、問いが具体的になるからです。

指標の裏側にある商談の進め方

案件進捗の段階は、現場の商談の進め方と対応しています。マネージャーが指標を読むには、その裏側で何が起きているかを知っておく必要があるため、ルートセールスの商談の流れにも触れておきます。

ルートセールスの商談の流れ

日々の活動をフローにすると、ルートセールスの商談は次のような流れになります。

  1. 目的を持ってニーズを把握する
  2. 相手に合わせたメッセージを伝える
  3. 購買意欲を確認する(バイイングシグナルを読む、トライアルクローズを試みる)
  4. クロージングの準備が不十分であれば、1のニーズ把握に戻る
  5. クロージングの準備が整っていれば、ストレートクローズかシフトアップクローズのどちらかでクロージングする
  6. 商談の内容を SFA(CRM)などに記録し、次の商談で再びニーズの把握から始める

5のクロージングは、次の2種類に分けられます。

  • ストレートクローズ: 今すぐの購入を求める。次回のアポイントの目的を明確にする
  • シフトアップクローズ: 顧客の行動の変化について合意を取る。スケジュールをフォローする。次回のアポイントの目的を明確にする

ここは新規営業とかなり異なる点です。仮説を当て、顧客の反応を見ながら、どのように提案やクロージングに持っていくかの筋書きを常に描き続けます。

二種類のクロージング

2種類のクロージングの違いは、現状(As-Is)を A、目標(To-Be)を B として図に置くとわかりやすくなります。

  • ストレートクローズ(Big "A" to "B"): 現状から目標へ、つまりクロージングして契約に至るまでの道のりそのものを示します。多くの人が思い浮かべるクロージングはこちらです。
  • シフトアップクローズ(Small "a" to "b"): 現状から目標までを逆算し、途中にチェックポイント(1、2、3…)を設定します。あるチェックポイントから次のチェックポイントへ進むことを a→b と呼びます。直接の受注や契約ではなく、A→B の実現から逆算した顧客の行動変容を目的とするクロージングです。

各チェックポイントでは、そこで使う商品特性、商品メッセージや探りの入れ方、必要なリソースを用意しておきます。

売れる営業は、このシフトアップクローズが上手です。シフトアップクローズは、購買に向けた顧客の行動変容に対するクロージングです。

例えば、おいしい食品を売っている営業だとします。

  1. 競合の商品 A を食べてみてもらう
  2. 自社の商品を試食してもらう

この2つの行動について顧客から「Yes」をもらえれば、「この商品はおいしいね、買うよ」となる確率が上がります。そのため、購買そのものではなく、その手前の行動に対してクロージングしていきます。購買までの過程に段階を設け、一つずつシフトアップクローズしていくことを示したのが、Small "a" to "b" です。

マネジメントの側から見ると、このチェックポイントが、先に挙げた案件進捗の段階にあたります。顧客のどの行動変容をもって次の段階に進んだと見なすかを決めておけば、「提案まで進んだ」という報告が担当者ごとに違う意味を持つことがなくなり、案件進捗は読める数字になります。

計測・判断・実行の仕組み

ここまでのマネジメントができていれば、狙って売上を上げられる仕組みになります。さらに、それを SFA(CRM)に実装すれば、PDCA を継続して、変化し成長し続ける営業組織を作ることができます。

SHOGUN では、営業マネジメントを計測・判断・実行の三つの機能として捉えています。ルートセールスに当てはめると、次のようになります。

  • 計測: 顧客の Tier、活動の中身の分類、案件の発生とその段階を、同じ定義で記録に残す。分子と分母を固定し、担当者ごとに意味が違う数字をなくす
  • 判断: 週次で、ターゲット比率、有効活動数、案件進捗、既存顧客からの新規案件の発生数を読み、どの得意先のどの段階に手を打つかを決める
  • 実行: 決めたことが、翌週の訪問先の選び方とアカウントプランに反映されているかを確かめる

三つのうち、どれか一つだけを整えても仕組みにはなりません。Tier を定義しても訪問先が変わらなければ計測が無駄になり、週次で数字を読んでも記録の定義がばらばらなら判断を誤ります。

SHOGUN が支援した地方の中堅メーカー(約120名、期間1年)は、まさにこの状態でした。成長率マイナス5%で売上目標の未達が続き、営業活動は担当者任せで、訪問先も訪問頻度も個人の判断に任されていました。顧客ごとの重要度が定義されておらず、既存顧客の維持に時間の大半が使われ、狙って売上を作る仕組みがないまま、未達の原因が特定されずに翌年も同じ計画が繰り返されていました。顧客分析にもとづいて顧客を Tier に分け、Tier ごとの訪問頻度と役割を定義して訪問設計を改訂し、KPI管理と商談レビューの運用を整備して現場に展開し、営業と企画部門の連携までを1年かけて定着させた結果、主力製品の売上は前年比124%になりました。この記事で書いてきたターゲティングの設計と、活動量・案件進捗の計測が、そのまま打ち手になった例です。

自社で確かめる点

ルートセールスのマネジメントが仕組みになっているかどうかは、次の点で確かめられます。

  • 顧客に Tier などの優先順位が定義され、その定義が営業担当者に共有されているか
  • 活動全体のうち、Tier1 の顧客に向けた活動の割合が数字で分かるか
  • 面談の記録に、関係構築・ヒアリング・提案・価格交渉といった中身の区分があるか
  • 既存顧客からの新規案件の発生数と発生率を数えられるか
  • 既存顧客からの売上のうち、追加で獲得した金額の割合が分かるか
  • 得意先ごとの案件進捗が、担当者に聞かなくても記録から分かるか
  • 営業会議で「訪問量を増やそう」以外の指示が出ているか

このうち最初の二つが「いいえ」なら、ターゲティングが設計されていない状態です。活動量や商談の質に手をつける前に、そこから始める必要があります。

私自身が外資系製薬会社で担当エリアのルートセールスをしていた頃も、このマネジメント手法を使っていました。コンサルティングで支援するときも、考え方は変わりません。ルートセールスは、施策の効果が見えにくいと言われますが、それは測る物差しが置かれていないからであり、物差しを置けば、新規営業と同じように狙って売上を作ることができます。

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