営業組織改革

日本の営業組織はなぜ変われないのか

ツールを入れても、研修をしても、コンサルを入れても変わらない。日本の営業組織が抱える構造的な問題とその処方箋。

ある大手メーカーの営業本部長が、こんなことを言った。「今年こそ営業改革をやる。まずSalesforceを入れよう」。1年後、そのSalesforceは見事に「高価な住所録」と化していた。入力率は2割を切り、週次の営業会議では相変わらずExcelが投影されている。この光景を、自分は300社以上の営業組織で繰り返し見てきた。ツールを変えても、研修をやっても、コンサルを入れても、半年後には元通り。日本の営業組織には、変われない構造的な理由がある。

KKDという「成功体験」の呪い

日本の営業組織の多くは、いまだに「勘・経験・度胸(KKD)」で回っている。これは別に悪意があるわけではない。高度成長期には実際に機能していた。市場が毎年膨らみ、足で稼いで名刺を配れば数字が積み上がった時代には、KKDは合理的なアプローチだった。

問題は、その成功体験が強烈すぎたことだ。

上の世代が「俺はこうやって数字を作った」と語るとき、それは嘘ではない。実際にそうやって作ったのだ。だが、その方法論が通用した前提条件——右肩上がりの市場、情報の非対称性、少ないステークホルダー——はすべて消え去っている。顧客はネットで事前に調べ尽くしてから営業に会う。意思決定には5人も6人も関わる。にもかかわらず、営業の「やり方」は驚くほどアップデートされていない。テクノロジーだけが進化し、それを活かすための方法論が30年前のまま止まっている。

率直に言う。これは怠慢だ。

カリフォルニアから見た日本の営業

自分がアメリカに移った理由の一つは、セールスの方法論・データ活用・テクノロジーが世界で最も進んでいる場所で仕事がしたかったからだ。実際にこちらで数年過ごして、日本を振り返ると、そのギャップに愕然とする。

アメリカでは営業担当者が顧客対応に使える時間を最大化することに、組織全体が執着している。それでも平均で営業担当者が実際に顧客と向き合っている時間は全体の約30%しかない。残りの70%は社内会議、CRM入力、提案書作成、事務処理に消えている。アメリカの企業はこの30%という数字を「問題だ」と認識し、必死に改善しようとしている。

日本ではどうか。そもそもこの数字を測定している企業がほとんどない。測定していないから、問題だという認識すら生まれない。営業担当者が一日中社内にいて提案書を書いていても、「頑張っている」で済まされる。これがKKDの限界だ。測定しなければ、改善のしようがない。

本質的な問題:営業組織が「経営されていない」

300社以上を見てきて、確信していることがある。日本の営業組織の最大の問題は、営業組織が「経営されていない」ということだ。

経営層が把握しているのは「結果」と「雰囲気」だけだ。今月の売上はいくらか。あの担当者は頑張っているように見えるか。しかし、結果に至るまでのプロセスは完全にブラックボックスになっている。

どの商談がどのフェーズにあるのか。受注確度の根拠は何か。パイプラインは来期の目標を達成するのに十分か。失注の本当の理由は何か。こうした問いに、データで答えられる営業組織は日本では極めて少数だ。

結果だけを見て「もっと頑張れ」と発破をかける。これはマネジメントではない。ただの応援だ。応援で組織は変わらない。スポーツチームの監督が試合のデータも見ずに「気合いで勝て」と言ったら、誰もがおかしいと思うだろう。しかし営業組織では、それがまかり通っている。

ツールの前に「何を測るか」を決める

では、どうすれば変われるのか。答えはシンプルだが、実行は難しい。「見えないものを見えるようにすること」から始めるしかない。

多くの企業が犯す過ちは、ツール導入から始めてしまうことだ。あるいは、研修で意識改革を試みる。だが、何を変えるべきかが分かっていない状態で手段だけ導入しても、効果は出ない。

正しい順序はこうだ。まず、営業プロセスの現状を可視化する。何が測定できていて、何ができていないのかを明らかにする。次に、どの指標をどう評価すべきかを定義する。そして初めて、その測定と評価を支えるためのツールや仕組みを選定する。

地味な作業だ。華やかさはない。だが、この順番を飛ばした「改革」は、例外なく失敗する。

変われないのではなく、見ていないだけだ

日本の営業組織が変われない理由は、意志の問題でも、能力の問題でも、予算の問題でもない。自分たちの現状を正確に見ていないことが最大の障壁だ。

健康診断を受けずに「来年は健康になろう」と宣言しても意味がない。まず血液検査をしろ、体重を測れ、数字を直視しろ。営業組織もまったく同じだ。

問いたいのは一つだけだ。あなたの営業組織は、先月の受注率を正確に言えるか。パイプラインの各フェーズに何件の商談があるか把握しているか。営業担当者が顧客と向き合っている時間を知っているか。一つでも答えられないなら、そこが変革の出発点だ。

中谷真史

中谷 真史

SHOGUN Growth Advisory CEO /『SalesTech大全』著者