営業組織改革

日本の営業組織はなぜ変われないのか

この記事の要点

「日本の営業は高度経済成長期から進歩していない」という言い方を、さまざまな場面で耳にします。実際、「何をすれば売れるのか」という問いにデータで答えられる営業組織は、セールステックが広がった現在でもまだ多くありません。

私の見立ては、日本の営業組織が変われない原因は営業パーソンの意志や能力ではなく、営業組織にデータと型がないことにある、というものです。売れる理由が一部のトップセールスの頭の中にしかなく、組織として取り出せていない。この状態を変えるには、まず「売れる営業とそうでない営業は何が違うのか」を事実として確かめ、それを組織のプロセスに組み込む必要があります。

この記事では、私が2019〜2020年に取り組んだ営業の科学化の考え方と、日本のIT法人営業493名を対象に行ったコンピテンシー調査の結果をもとに、この見立てを説明します。調査では、成績上位層と下位層の差は商談の中身ではなく、商談の前工程に表れていました。後半では、その結果を営業組織のプロセス管理と商談の型にどうつなげるか、そして自社で何を確かめればよいかを整理します。

営業組織が経営の中で担う役割

最初に、営業組織が経営の中で何を担っているのかを確認しておきます。私は、営業組織の役割を次の二つだと考えています。

  1. 最低限のリソースで、最大限の収益を上げること
  2. いつ、何が、いくらで、どこに売れるかをコントロールすること

企業は、営業組織が稼いだキャッシュからコストを差し引いて利益を確定させ、それを将来の事業に投資して成長します。営業活動は企業の成長の源泉であり、本来は企業の中で最も進化しなければならない機能のひとつです。それにもかかわらず、昭和の頃からやり方がほとんど変わっていない営業組織は、いまも多く見られます。

二つ目の役割は、SHOGUNが営業マネジメントの構成要素として置いている計測・判断・実行と同じことを指しています。営業活動と案件が同じ定義の数字として残り(計測)、その数字から何が起きているかを読んで次の一手を決め(判断)、決めたことが現場の動きに変わる(実行)。この三つがそろって初めて、「いつ、何が、いくらで、どこに売れるか」を組織としてコントロールできる状態になります。

営業の生産性を上げなければならない理由

営業組織の生産性を上げなければならない理由は、日本の経済と人口の数字から説明できます。

経済成長の鈍化

内閣府の『平成27年度 年次経済財政報告』によると、日本の平均的な実質GDP成長率は、1980年代の4.4%から1990年代には0.9%へと、3.5%ポイントほど下がりました。成長率を全要素生産性(技術革新など)・資本・労働の寄与に分けると、この間にそれぞれ1.5・0.9・1.1%ポイント低下しています。2000年代も成長率は0.7%と低いままで、人口減少を背景に労働投入はマイナスに寄与し、資本の寄与もさらに縮小しました。

労働の寄与が今後増えることは期待しにくく、資本の寄与も大きくは伸びていません。経済を再び加速させるには、テクノロジーに投資し、人材一人ひとりの生産性を高めるしかありません。営業職も例外ではありません。

営業職の人口減少

営業職の就業者数は、すでに減り始めています。国勢調査では、営業職は2000年の468万人をピークに、2015年には336万人まで減りました。

今後は、働き手そのものが減ります。国立社会保障・人口問題研究所の推計(令和5年推計、出生中位・死亡中位)では、15〜64歳の生産年齢人口は、2020年の7,509万人から2040年には6,213万人へ、約17%減ります。営業職も同じ割合で減ると仮定すると、336万人は20年ほどで約278万人になります。

営業全体の成果を「営業人員 × 一人当たり生産性」で表すと、次の表のようになります。

時点 営業人員 × 一人当たり生産性 成果
現在 336万人 × 100 336
20年後(やり方を継承するだけの場合) 278万人 × 100 278
20年後(継承に加えて進化した場合) 278万人 × 121以上 336以上

いまの成果の水準を保つだけでも、一人当たりの生産性を2割以上高める必要があります。人を増やして売上を保つという選択肢は、今後ますます取りにくくなります。加えて、働き手全体が減れば、経験を積んだ営業が後輩に教える時間も人数も減っていきます。営業のやり方を先輩から後輩へ人づてに受け継ぐこと自体が難しくなるということです。これが、営業のやり方を組織の仕組みとして変えなければならない根本的な理由です。

変われない営業組織に共通する課題

生産性の向上が急務である一方で、多くの営業組織では次のような課題が繰り返し起きています。

  • 営業活動が改善されず、PDCAが回らない
  • 情報資産が属人化している
  • 営業人材が育たない
  • 元トップセールスの管理職が、期待された成果を出せない
  • 営業支援ツールが現場で運用されない
  • 営業活動のデータが集まらない

この六つは別々の問題に見えますが、根は同じところにあります。たとえば「元トップセールスの管理職が成果を出せない」のは、その人の能力の問題ではありません。売る技術と、組織の数字を測って判断し、実行を確かめる技術は別のものであり、マネージャーの選抜では後者が問われていないというだけのことです。売る技術が組織の型として取り出されていなければ、優れた売り手であっても、他人に再現させることはできません。

古い考え方が残っている

こうした課題の背景には、営業を気合いと根性の仕事とみなす、古い考え方があります。日本の営業組織によく見られるのは、次のような考え方です。

  • 背中を見て育て
  • 勘・経験・度胸(KKD)
  • 営業はセンス
  • 将来の価値より、目の前の価値を優先する
  • とにかく頑張る
  • 数字は詰めてこそ
  • 内勤作業(記録や分析)が嫌い、あるいは苦手

こうした考え方から抜け出せない組織は、いまも少なくありません。

データと型がない

この考え方が生む問題を突き詰めると、次の二つに集約されます。

  1. データがない
  2. 「型」がない

解決策のひとつとして、SFA(CRM)を中心としたセールステックを導入する企業は増えてきました。それでも、データがない、型がないという問題は、十分に解決されているとは言えません。

営業パーソン個人も、答えを求めて多くの営業書籍を読み、自己研鑽を積んでいます。しかしその多くは、かつての優れたトップセールスの自伝に近く、体系化・構造化されたものではありません。結果として「誰も答えを知らない」か、ベストプラクティスが一部の優秀なトップセールスの頭の中にだけある、という状態が続いています。

型がないことは、営業の育て方に表れます。OJTが「先輩の商談に同行する」だけで、同行して何を見るかが決まっていなければ、それは型ではなく、背中を見て育てと同じです。

データがないことは、営業の時間の使い方に表れます。Salesforceが2023年に発表した「セールス最新事情」(第5版)によると、営業担当者が実際の営業活動に費やしている時間は、全体の28%にとどまります。残りは社内会議やCRMへの入力、事務処理などに使われています。自社の営業担当者が顧客と向き合っている時間を把握しているかどうかは、営業組織にデータがあるかどうかを確かめるひとつの目安になります。

IT法人営業493名のコンピテンシー調査

「売れる営業とそうでない営業は、何が違うのか」。この問いにデータで答えるために、私たちは2019年9月にプロジェクトを立ち上げました。営業に必要な能力(コンピテンシー)を洗い出し、トップセールスとそれ以外の営業パーソンの能力差を調べ、トップセールスのスキルを誰もが使えるものにすることが目的です。

調査の設計

最初の約4カ月は、次の設計と準備に費やしました。

  • セールスコンピテンシーの設計
  • 調査に協力いただく会社集め
  • 調査のスコープと手法の設計
  • 調査の実施
  • 調査結果の分析

2020年1月、日本のIT法人営業パーソン493名分のコンピテンシーデータがそろいました。許容誤差5%以内に必要なサンプル数を大きく上回る規模です。データサイエンティストの協力を得て分析を行いました。

調査では、回答者の属性情報と、6カテゴリ・70項目のコンピテンシーを組み合わせて収集しています。6カテゴリは次のとおりです。

  • 情報収集・管理力
  • 計画力
  • 関係構築力
  • ヒアリング力
  • 専門性・中立性のある課題解決
  • 商品提案力

なお、分析ではアンケートの回答を間隔尺度とみなしており、回答傾向の間隔調整は行っていません。営業成績も回答者の自己申告です。

回答者の成績と経験年数

回答者の営業成績(社内での位置づけ)の分布は、「1位」が6%、「上位5%」が25%、「上位20%以内」が27%、「それ以下」が42%でした。優秀層がやや多い母集団です。

経験年数と成績の関係には、興味深い傾向が見られました。

  • 経験1年未満では、成績が「それ以下」の人が約8割を占める
  • 経験を重ねるにつれて下位層の割合は減り、5〜10年未満では約2割まで下がる
  • 10年を超えると下位層の割合は再び増え、20年以上では5割近くになる

優秀な人ほど若いうちに営業職を卒業していくのか、10年以上営業を続けるうちにモチベーションを保ちにくくなるのか。いくつかの解釈ができる結果です。

自社でも、経験年数別に成績の分布を見てみると、育成の投資がどこで効き、どこで止まっているかの手がかりになります。10年を超えた層が下位に戻っているなら、ベテランの学び直しや役割の見直しを考える材料になります。

上位層と下位層の差が大きかったカテゴリ

成績の上位層と下位層に分けて6カテゴリの平均値を比べると、上位層はすべてのカテゴリで標準より高い水準にありました。一方、下位層は「関係構築力」「ヒアリング力」「専門性・中立性のある課題解決」「商品提案力」ではほぼ標準並みでしたが、「情報収集・管理力」と「計画力」では標準を下回っていました。上位層との差が最も大きかったのは計画力で、次いで情報収集・管理力です。

つまり、トップセールスとそれ以外の営業の差は、商談の中身よりも、商談の前工程に表れていました。下位層も、商談の場での関係構築やヒアリング、提案は標準並みにできています。差がつくのは、商談に入る前です。

70項目の差を順に掘り下げていくと、差が最も大きかったのは次の4つです。

  • 売上(着地)予測
  • 商談の事前準備
  • 社内の意思決定ルートの攻略
  • ターゲティング

決定木分析の結果

決定木分析では、トップセールスかどうかを分ける条件として、次の3つが抽出されました。

  1. 毎月の売上予測(着地)を、週に1回以上見直している
  2. 決裁者・キーマンへの接続ルート(代理店担当者からの紹介、現場担当者からのランクアップなど)を把握できている
  3. 購入時期を月単位で聞き出すことができている

この3つの条件をすべて満たす人は回答者の約2割で、その86%がトップセールスでした。

このほか、分岐の条件として「キーマンとの共通の話題を持ち、実際にその話題で話せている」「競合しそうな企業を想定し、競合商品の強みと弱みを理解している」「ターゲットに優先順位をつけ、3つ以上の顧客セグメントごとに活動内容と活動量の計画を立てている」といった項目も現れています。いずれも、商談に入る前に済ませておく準備や把握に関わるものです。

この3つの条件は、いずれも個人の話術や人柄ではなく、SFA(CRM)の項目と週次の運用として組織が持てるものです。着地予測をいつ誰が見直すか、決裁者への接続ルートと購入時期をどの項目に残すかは、組織が決められます。逆に言えば、自社のSFA(CRM)に決裁ルートと購入時期の欄がなく、着地予測が月末にしか見直されていないなら、トップセールスを分ける行動が組織の仕組みに入っていない、ということになります。

調査結果から言えること

私の主張は、「勝負は提案前に決まっている」ということです。優秀な営業パーソンにとっては当たり前のことで、これまでも多くの人が語ってきました。ただ、その根拠は経験に頼るものでした。この調査では、それを統計的な有意差として確認できました。

営業の種類によって、重要な能力は変わる

この調査の対象は、IT法人営業です。商材が無形で複雑であり、顧客の意思決定プロセスも複雑な、営業の中でも難易度の高い領域です。

BtoBの営業では費用対効果(ROI)の考え方が重くなり、論理で意思決定される要素が強くなります。案件あたりの金額が大きく、提案に工数がかかるからこそ、「いかに確実に、いかに効率よく受注するか」という能力、つまり予測、事前準備、意思決定ルートの攻略、ターゲティングが重要になっていると考えられます。

これが低価格帯のBtoC営業であればプレゼンテーションやクロージングが、高額なBtoC商材であればヒアリングが、より重要になっていた可能性があります。営業と一口に言っても、次のようなさまざまな切り口で性質が変わります。

  • 法人向けか、個人向けか
  • 新規顧客の開拓か、既存顧客の深耕か
  • 大企業向けか、中小企業向けか
  • 有形商材か、無形商材か
  • 高額商材か、低価格商材か

営業職は専門性を増しており、求められる能力も変化しています。こうした前提を抜きにして「営業は〇〇が重要だ」と語る論調は、もう通用しにくくなっています。自社の営業に必要な能力を定義するときも、自社の営業がこの切り口のどこに当たるかを先に決めておく必要があります。

「何を」はわかっても、「どう行うか」は別の課題

この調査で明らかになったのは、トップセールスが「何に」優れているかです。予測や意思決定ルートの攻略を「どのように行うか」までは、アンケートの結果からはわかりません。「何を」が分かっただけでは、それを他の営業パーソンに再現させることはできません。そこで必要になるのが、営業組織にデータと型を持ち込む取り組みです。

営業を科学する二つのアプローチ

営業を科学するには、大きく二つのアプローチがあります。ひとつはプロセスマネジメント、もうひとつは購買心理から逆算した商談の型です。前者がデータに、後者が型にあたります。

プロセスマネジメント

プロセスマネジメントとは、営業活動をいくつかのフェーズに分け、フェーズごとの歩留まりを集計して、どこで案件を落としているかを把握し、改善する方法です。営業活動は、初めて顧客に接触するところから、初回アポイント、課題合意、提案アポイント、クロージング、受注(申込書の回収)まで、いくつかのフェーズに分けて考えることができます。各フェーズから次のフェーズへ何%の確率で進んでいるか、つまり歩留まりを集計できれば、「どのフェーズで案件を落としているのか」「どの確率で受注できるのか」を明確に把握できます。

たとえば、見込み顧客を100としたとき、初回アポイントに進む案件が約65、課題合意が約56、提案アポイントが約43、クロージングが約13、受注が約9という営業チームがあるとします。この例では、提案アポイントからクロージングへの移行率が約3割と低く、ここが受注のボトルネックになっています。この移行率を50%まで引き上げられれば、受注率は大きく改善します。

歩留まりを集計するには、各フェーズの定義、たとえば何をもって「課題合意」とするかが、担当者の間でそろっている必要があります。SHOGUNではこれを計測と呼び、営業活動と案件が同じ定義の数字として残る状態をつくることと定義しています。定義がそろっていない数字は、きれいに集計しても読めません。SFA(CRM)を入れても歩留まりが見えない組織の多くは、ツールではなくこの定義の段階でつまずいています。

ただし、歩留まりが見えても、多くの営業組織がつまずくのは「どうやって提案からクロージングへの移行率を上げるのか」という点です。そこで必要になるのが、二つ目のアプローチです。

購買心理から逆算した商談の型

顧客には、初めて営業と接触したときから「買おう」と意思決定する瞬間まで、心の動きの変化があります。この心の動きを理解し、どのように導くかを設計できれば、受注までのステップを狙って進められるようになります。BtoBの中堅企業から大企業向けの営業では、意思決定に関わる人が多いため実際はもう少し複雑になりますが、基本の流れは同じです。

私は、購買心理から逆算した商談の進め方を「商談のゴールデンスタンダード」と呼んでいます。大きな流れは、信頼関係を築き(Relationship)、ニーズを把握し(Needs)、ニーズと商談をコントロールし(Control)、提案とクロージングを行う(Close)、の4段階です。それぞれの段階には、次の10項目があります。

Relationship(信頼関係構築)

  1. 好感獲得: 顧客から最低限嫌がられず、話を聞いてもらえる状態をつくる。理想は、好感を持たれ、興味を持ってもらえている状態です。
  2. プロとしてのポジション獲得: 商品や業界について顧客との間に情報格差があることを示し、中立的に助言することで、プロとしての信頼を得ます。

Needs(ニーズ把握)

  1. ビジョン共有: 商品選びのレベルから、理想とする業務や経営、生き方といった上位の話に引き上げ、顧客の理想を広げるヒアリングでニーズを広げます。
  2. 問題点の特定: 現状の不満や、理想と現状のギャップを引き出し、満たされていないニーズを確認します。

Control(コントロール)

  1. 期待値調整: ニーズ把握で広げた話を畳む段階です。理想を描き、購買意欲と商品への期待が高まったところで、理想への第一歩としての商品価値をすり合わせます。
  2. オブジェクションハンドリング: 「買わない理由」を否定せずに扱い、解消します。想定される反論を事前に洗い出し、応答を用意しておきます。
  3. アンカリング: 商品を選ぶ際の判断基準を設定します。自社品の強みが活きる土俵で比較してもらうための、事前の合意形成です。

Close(提案・クロージング)

  1. 差別化: アンカリングで設定した判断基準で他の商品と比べることで、自社品が有利になり、選ばれます。
  2. イメージ喚起: 購入直前の不安を解消するため、実際に使ったときのイメージやメリットを思い描いてもらい、買いたい気持ちを高めます。
  3. クロージング: それまでの商談を振り返ってメリットとデメリットをまとめ、デメリットを改めて扱うことで、合理的な判断であることを確認します。そのうえで思いを伝え、顧客の背中を押します。

この流れで商談を進めると、商談にストーリーが生まれ、顧客を自然に導けるようになります。また、商談が後の段階に進むほど、競合となる選択肢は少なくなっていきます。

二つのアプローチを組み合わせる

プロセスマネジメントのフェーズと商談のゴールデンスタンダードは、次のように対応します。関係構築が得意な営業パーソンは初回アポイントの獲得に強く、ニーズ把握が得意な人は提案アポイントまで進めやすく、商談をコントロールできる人はクロージングまで持ち込めます。

この対応関係をもとに、各フェーズの指標が悪化したときに何が課題で、何を改善すべきかを整理すると、次の表のようになります。

低い指標 不足しているもの 改善策の例
初回アポイント獲得率 信頼関係の構築(好感獲得、プロとしてのポジション獲得) 身だしなみ・所作・言葉遣い、自己紹介と自社紹介、業界の専門知識
課題合意率 ニーズの把握(ビジョン共有、問題点の特定) ヒアリング項目の整備、相づちのトレーニング、深掘りの質問力
提案アポイント獲得率 顧客のコントロール(期待値調整、オブジェクションハンドリング、アンカリング) 反論への応答集の整備、競合情報の整理、アンカリングのトーク集の整備
クロージングアポイント獲得率 提案力(競合との差別化、イメージ喚起、クロージング) 競合との差別化のパターン化、顧客属性の整理、クロージングのトークの整備
受注率 上の4つのいずれか、または各ステップで顧客との合意が十分に取れていないこと セールスマニュアル全体の整理と、プロセスの細分化と検証

指標の悪化を課題に翻訳し、改善策を選ぶこの作業が、営業マネージャーの「読み」です。SHOGUNでは、打ち手の質は読みの質を超えない、と考えています。提案アポイント獲得率が落ちたときに「もっと訪問しろ」としか言えない組織と、「顧客のコントロールが不足しているので、反論への応答と競合情報を整備する」と言える組織の差は、この対応表を持っているかどうかです。

これを組織の共通言語として浸透させ、プロセスの指標を常に集計できていれば、日本の工場で行われてきた生産管理と同じように、営業組織でもプロセスを管理できる状態をつくれます。

受注率の先にある変数と戦略

ここまでは受注率を上げるための考え方です。営業の生産性全体を捉えると、次のように表せます。

営業生産性 = Σ(商談数 × 成約率 ÷ リードタイム × 単価)÷(原価 + 時間コスト)

時間コストには、営業活動そのものに加えて、事務作業や育成にかかる時間も含まれます。原価は営業組織がコントロールできないため、営業組織が動かせるのは、商談数、成約率、リードタイム、単価、そして時間コストです。先に挙げた、営業活動に使える時間が全体の28%にとどまるという調査結果は、この時間コストの大きさを示しています。

この中でも、受注率(成約率)の向上が最も重要だと私は考えています。受注率が上がるということは、商談の質が上がるということです。商談の質が上がれば受注までのリードタイムが短くなり、こなせる商談の数が増えます。値引きのリスクも下がるため、案件単価も相対的に上がります。受注率は、ほかの変数にも影響を与えます。

実行の前にある戦略とターゲティング

さらに上の視点で、企業としてどう勝つか、業績をどう最大化するかを考えると、事業戦略まで視野に入れる必要があります。営業の取り組みは、次の4つの段階で捉えられます。

  1. Strategy(戦略): PEST、SWOT、5フォース、3C、4Pなどで市場環境を分析し、どう攻めるかを決める段階。経営が担います。
  2. Targeting(ターゲティング): セグメンテーション、ビジネスポテンシャルの評価、顧客のティア分け、活動計画を立て、狙った市場の中で顧客攻略の優先順位を決める段階です。
  3. Action(実行): 行動量と行動の比率を管理する段階です。
  4. Quality Check(品質の確認): 受注率、案件単価、リードタイム、案件の進捗状況を確認する段階です。

SFA(CRM)が主に扱うのは、実行と品質確認の段階です。ここまでに紹介したプロセスマネジメントと商談の型も、実行の段階の話です。その前段にある戦略とターゲティングが定まっていなければ、実行をいくら磨いても、間違った方向に進んでいる可能性があります。ターゲティングが決まっていない状態でSFA(CRM)を入れると、残るのは狙っていない顧客との商談の記録です。反対に、戦略とターゲティングを理解していれば、実行の段階で異常値を見つけたときに、戦略の誤りに気づくこともできます。493名の調査で、ターゲティングが上位層と下位層の差の大きい項目に入っていたことも、この構造と整合します。

標準化は進化の過程

「営業を科学する」と言うと、「営業は科学できるものではない」という反応をいただくことがあります。私自身、営業のすべてを科学できるとは考えていません。科学できるのは、せいぜい7割ほどだと思っています。

それでも、標準化には意味があります。私は営業組織の進化を、次の4つの段階で捉えています。

  1. 現状: 営業パーソンごとに成果のばらつきが大きい
  2. 標準化: 下の層を標準の水準まで引き上げる
  3. 標準の引き上げ: 標準そのものの水準を高くする
  4. クリエイティビティの発揮: 高い標準の上で、個人の独自性が成果として表れる

営業組織の標準化はゴールではなく、進化の過程です。基礎となるスキルを欠いたオリジナリティやクリエイティビティは、むしろリスクにもなります。質の高い標準があるからこそ、その上で力を発揮できる営業パーソンがたくさんいると私は考えています。

SHOGUNでは営業改革を、営業成果を個人の力量や努力に依存する状態から、組織の仕組みによって再現できる状態へ変えることと定義しています。標準化はその入口です。493名の調査で見えた「商談の前工程」の行動をSFA(CRM)の項目と週次の運用にし、フェーズごとの歩留まりを同じ定義で集計し、指標が悪化したときの読みと改善策を対応表として持つ。ここまでできて、下の層を標準まで引き上げる土台ができます。

私は営業について学ぶほど、日本企業の営業が米国の先端から遅れていることを実感し、セールスとセールステックの最新の動きを追うために、2022年に米国カリフォルニア州へ拠点を移しました。それでも、日本の営業組織が変われない理由は、意志や能力の問題ではなく、データと型がないことにあるという見立ては変わっていません。

自社で確かめること

この記事の内容を自社に当てはめるなら、確かめる点は次の六つです。

  • フェーズごとの移行率と受注率を、担当者の間で同じ定義のまま集計できるか
  • 毎月の着地予測を、週に1回以上見直す運用があるか
  • 決裁者への接続ルートと購入時期が、SFA(CRM)の項目として残っているか
  • 各フェーズの移行率が下がったとき、何が課題で何を改善するかの対応が決まっているか
  • 実行の前段にあるターゲティング(顧客セグメントごとの活動計画)が定まっているか
  • 営業担当者が顧客と向き合っている時間を把握しているか

営業は、ネガティブな印象を持たれることも多い職種です。しかし突き詰めると、極めてクリエイティブな仕事であり、同時に経営活動に近い、論理的な仕事でもあります。上の六つのうち答えられないものがあれば、そこが自社の営業組織にデータと型が欠けている箇所であり、変わるための最初の着手点になります。

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